2020/8/27
コロナの影響もあり、しばらく出かけられていなかったが、そろそろ山が恋しくなってきたので、登山に出掛けることにした。
今回目指すのは福島県の磐梯山。
遠くの山には出かけづらいということもあるけれど、近くにありながら登ったことがなかく、しばらくの間候補として温めたままになっていたので、この機会に登ってみることにした。
先週末から登山計画を立て、当日はすぐに出かけられるよう荷物のほとんどを準備していた。
自宅を出発したのは、朝5時。
夏至をとうに過ぎて朝は着実に遅くなっているが、すでに朝日は昇りかけている。
こういう初秋の早朝の空は、子供のころの運動会の朝を思い起こさせる。
高速道路を走り抜け、登山口の猪苗代スキー場に到着したのは、午前8時だった。
もっともメジャーな登山道は、八方台コースなのだが、せっかくなのでしっかりと登ろうと、あえて一番長いコースを選択した。
オフシーズンのゲレンデを登山のために登るのは初めてだったので、緑のゲレンデを見上げるだけでも、胸が躍る心地がした。
コースタイムは、6時間30分だが、休憩時間や自分のペースを考慮し、登山計画では7時間45分としていた。
天気はあいにくの曇りで、山の稜線はおろか、ゲレンデでさえ上方はほとんど雲の中に沈んでいる。
準備を整えて、8時15分に登山開始。
ゲレンデの下部には、季節限定のバーベキュー場が設えられていたが、平日ということもあり、近くで犬を遊ばせている人がいる以外には、客はおろかスタッフもいない、まったくの無人だった。
駐車場には何台かの車がとまっていたので、ほかにもこのコースを登っている登山者がいるかもしれない。
よく散歩に来るという近所の方と途中ですれ違ったが、どうやらクマが出るらしい。事前に調べて分かってはいたけれど、実際に話を聞いてしまうと、やはり怖い。
気を取り直してひたすらゲレンデを登る。
といえば淡々と登る道のようにも思えるが、正直、ここまでつらいものかと思うほどの道だった。
冬には何度も来ているスキー場で、いつもなら滑り降りるだけ、しかもそこまで傾斜がきつい斜面だとは思っていなかった。
それが登るとなると、まるで壁のように視界を占領し、圧力をかけてくる。
草が繁茂して景色の変化が少ないこともあるけれど、心身ともにじりじりと疲弊させられているように感じた。
小休憩をはさみながら、背後の猪苗代湖に背中を押されるようにしてどうにかゲレンデを登り切ると、ようやく見慣れた雰囲気の登山道が現れた。
スキーに来た時には、こんなところに登山道があったことなど気づきもしなかった。
ごつごつとした岩と木々のトンネルの登山道を登っていくと、ほどなくして1合目の「天の庭」に到着。
時刻は午前9時32分。
晴れていれば、景色が良かったのだろうけれど、眼下に見えるはずの猪苗代湖はほとんど雲に隠されてしまっていた。
そこからさらに登山道を進んでいく。
足場は岩が多いが、ゲレンデを登っていた時の負荷と比べれば、何ともないと言っていいほど楽に感じる。
時々、少し開けたガレ場が現れるが、周囲はやはり灰色一色。
文字通り雲の中を歩いているのだということを感じさせられる。
天の庭から20分ほど進むと、赤埴山への分岐に差し掛かる。
往路は赤埴山を経由することにしていたので、分岐を右に折れ、赤埴山の山頂を目指す。
比較的背の低い木々が茂るガレの道を進むと、分岐から20分ほどで赤埴山頂上に到着した。
ここで少し長めの休憩をとり、着替えを済ませる。
気温は決して低くないけれど、ゲレンデからの行程でシャツはすっかり湿り切っていたので、風が当たるとさすがに肌寒く感じた。
本来であれば、磐梯山手前の櫛ヶ峰を望む展望があるはずなのだが、やはり周囲は灰色一色で、木々の輪郭が浮かび上がっている以外は、特に何も見えなかった。
その様子は、昔テレビか映画で見た、“あの世”を表現する茫洋とした光景を彷彿させる。
15分ほど休憩したのちに出発。
赤埴山の先は勾配が緩くなっており、しばらくは比較的平坦な林道が続く。
ここからの分岐はすべてほかの登山道からの合流で、道標もしっかりあるので、道迷いの心配はない。
赤埴林道との分岐を越えて、沼の平と呼ばれる湿原に差し掛かると、いくらかの花が咲いていて、少しだけ視界が華やいできた。
途中流れている小川の底には赤褐色の堆積物が見て取れ、さらに進んでいくと火山特有の刺激臭が鼻を衝く。
さらに進み、渋谷コースと川上コース、2つの分岐を越えると3合目に到着。
時刻は11時13分。
一気に視界が開け、裏磐梯の荒々しい風貌や、崖にそびえる天狗岩が見渡せる。
いくらか雲も晴れてきて、北側にはわずかに檜原湖を望むことができたが、周囲の山並みはわずかに輪郭らしい影が見える程度だった。
この辺りには背の高い木はなく、草地と空と岩稜という、高山の尾根道らしい風景が広がっている。
そこから勾配のある岩道を登っていき、八方台、裏磐梯方面からの合流を越え、11時41分には4合目の弘法清水小屋に到着した。
食事や休憩ができる小さな山小屋で、売店も備えられている。
携帯トイレ限定ではあるが、トイレも購入、利用することができる。
この近くで食事をとっている登山者も何組か見られたが、わたしは余程コンディションが悪くない限りは山頂で昼食をとることにしていたので、山小屋は素通りして山頂へ向かった。
山頂までは、再び岩の登山道となった。
足場が悪く道幅も狭い。
左右からは背の低い木がせり出してきている箇所もあり、すれ違いには注意しなくてはならない。
弘法清水小屋から最後の登山道を登ること約30分、一気に視界が開け、頂上に到着。
時刻は12時13分、出発から約4時間で登頂することができた。
頂上は石を積み上げたようなガレの丘で、最上部付近には小さな祠があった。
昼食は、アルファ米の山菜おこわ。
いつもであればカップ麺が多いのだが、山菜おこわが好物なので、久しぶりの登山のお供にと選んだものだった。
ただ、熱湯で15分と、カップ麺に比べればかなり時間がかかるものであるため、まずお湯を沸かし、その間に着替えや、水筒の補充、荷物の整理などを先に行った。
沸騰するまで熱したお湯を注ぎ15分後、満を持して食事を口に運ぶと、やや硬い。
標高が2000メートル近いので、お湯の温度が十分に上がっていなかったのかもしれないけれど、山頂での食事は単純な味覚を上回る満足度が得られるもので、あまり気にせずに10分とかからずに平らげてしまった。
天気は程よく晴れてきているものの、依然として雲が多く、風の具合で景色が現れては消えていった。
雲の流れの合間に、北側の山並みは良く見て取れたが、南側に見えるはずの猪苗代湖は、まったく見ることができなかった。
食事を含めて1時間ほど山頂でゆっくりしていたが、結局「これだ」というシャッターチャンスには恵まれなかった。
下山はまず弘法清水小屋に寄り、トイレを借り、お土産を購入した。
山でのお土産は、手ぬぐいやピンバッジが特に好きなので、今回も手ぬぐいを購入した。
その後は来た道をひたすら戻る。
天気はかなり良くなってきていて、往路で見ることができなかった美しい景色を楽しみながらの下山となった。
ちなみに、登山時にはゲレンデで道を間違えており、本来であれば林間コースに登山道があったようだが、私はぶな平ゲレンデの草をかき分けながら登ってきてしまっていた。
途中でおかしいことには気が付いていたけれど、ゲレンデのため、行き着く先は変わらないと判断し、そのまま登山口までたどり着いたというわけだ。
そのため、帰りは地図を再確認し、正しいコースを下った。
林間コースを下ってみると、下草が刈り揃えられていて歩きやすくなっていた。
とはいえ、勾配が緩いわけではないため、こちらから登っていたとしても負荷はあまり変わらなかったかもしれない。
分岐地点まで下りてくると、草の合間に登山道の道標を見つけることができた。
登山時はこの写真の道を直進してしまったが、正しくは左折だったようだ。
次にこの登山道から登ることがあれば、もう間違えることはないだろう。
次第に大きくなってくる猪苗代湖を眼下に見下ろしながら、ゆっくりとスキーで滑り降りるような気分で最後のゲレンデを下る。
登山口への帰着は15時51分。
往復7時間40分ほどの山行となった。
区間ごとの前後はあったものの、概ね登山計画通りのタイムである。
登山口には携帯トイレの回収ボックスがあるのがありがたい。
駐車場は夕方になっても閑散としている。
冬場はスキーやボードのレンタル、レストランなどの施設があり、スキー客でにぎわっていたのだが、シーズンオフの、しかも平日ともなれば、やはりスキー場には人気がないのが普通なのだろう。
前半の天気には恵まれなかったが、その分、晴れの日では見られない景色を楽しむことができ、とてもよい登山になった。
もちろん磐梯山そのものも良い山だったので、機会があればまた登ってみたい。