2021/3/20
槙野さやかさんはガラスの作家である。
作品は過去何度も見ているが、そのたびに透明であるがゆえの透過、鋭い反射、やわらかい屈折など、ガラスという物質が生み出す様々な光の表情を見せられてきた。
槙野さんの作品は、複数の板ガラスを接着し、研磨するという方法で主に制作されている。
それは、例えばガラス細工のような工芸的な造形ではなく、あくまでガラスという物質の性質、現象に着目した表現であるように感じられる。
数年前からは水、液体を思わせる造形が多くなっていて、ガラスという流動性のない物質の造形が、かえって水の表情を錯覚させるのである。
それは、写真のように単純に水の瞬間の形を捉えたものとは少し異なる。
大きく波打っているように見える作品も、近づいてよく見ると、ガラスの表面の波は意外なほど浅い。
特に、背面に鏡を張り付けている作品はその特徴が顕著である。
槙野さんの話によると、鏡の反射によって光の透過、屈折の深度が倍加することがその原因であるらしい。
わたしたちが普段見ている水の表情にも、同じように目で見えているのとは異なる形があるはずである。
見えているものと現実にはずれがあるという事実とともに、光によってものが見えるという現象そのものの不思議を感じずにはいられない。
一方で、ガラス≒液体という構図の中で、柔軟な遊び心が感じられる展開も見られるのが面白い。
その広がりによって流体の粘度までも錯覚させてくる造形に、指を突き立てれば沈むのか、はじかれるのか、見る者は思わず触れてみたくなるのではないだろうか。
槙野さんが作り出す、透明な層によって形を変えた世界。
それは、幼い頃に好奇心と共に飛び込み、覗き込んだ、水たまりの向こうの世界に通じるものなのかもしれない。
槙野 さやか 展 『glassworks』
2021年3月20日(土)~28(日)
ギャラリーしのざき
(茨城県水戸市泉町1-3-14 田村ビル3F)
https://g-shinozaki.com/