板垣翠展『発見』

アート探訪

2020/10/24


板垣さんの作品を見るのは数年ぶりとなる。
お子さんが生まれてからしばらく発表の機会がなかったこともあり、板垣さん本人としても、以前とは少し違う感覚で制作に臨んだとのこと。
「発見」という展覧会名も、そういった新鮮な想いの現れであるように感じられる。

会場風景1
会場風景2

作品は、少し見ただけでも以前とは違った雰囲気を感じられるものになっていた。
大筋としては、かつての板垣さんの作品に見られた有機的な線描の造形の集積という性質は変わっていないが、以前よりも色彩のイメージが強くなり、にじみが入ることによって、より表情が豊かになった。

しかし、変化があったのは、そういった直接的な視覚効果だけではない。

まず、モチーフの選択である。

「クワガタ」は、お子さんと一緒に夏の間に捕まえたクワガタムシの最期の姿であるという。”ちょっとした解説”には、「死んだクワガタは合掌しているようです。南無阿弥陀仏…」とあるが、小さな亡骸をシリアスな死の象徴ではなく、どこかあっけんらかんとした、温かみのあるものとさえ見せてしまうのは、いかにも彼女らしい。
ほかにも、「せみのぬけがら」、「ハルジオン」、「トチの実」、DMにもなっている「やもり」など、身近なものに対する視線が強くなっていることを感じる。

クワガタ

これらは、コロナ禍で外出を控えていた時期に、自宅の近所でお子さんと一緒に見つけたものであるそうだ。その、手に取ることができる距離感が作品に確かに宿っていて、わたしには以前よりも親しみが持てる作品になったように感じられた。

また、以前の制作に準じた造形の中にも、感覚的な変化を感じることができる。
特に印象的だったのが、「銀河」、「心臓」である。

銀河

これまでの作品は、有機的でありながら整然としていて、静止しているがゆえに完成された印象があったのだが、今回の作品はどこか動き出しそうな印象がある。
「銀河」の螺旋は無限に回り、「心臓」は脈打つ。
作品の一つ一つが、例えば命を持って蠢いているかのような、解放された自由さを感じるのである。

もちろん、「トリ皿」や「骨董ぽい皿」など、板垣さんの飾らない感覚は変わらず感じられる。

トリ皿
再生煩悩日記 時折お子さんが乱入して合作とのこと

その中で、いくつもの変化が見られ、作品の魅力が大きく増していることは、板垣さんの生活や内面が一層豊かなものになってきていることの現れであるように感じた。
これからも多くの発見があり、それによってより自由に、より豊かに、作品が深化していくことを期待したい。


板垣 翠 展 『発見』
2020年10月17日(土)~25日(日)
ギャラリーしのざき
(茨城県水戸市泉町1-3-14 田村ビル3F)
https://g-shinozaki.com/

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