2021/3/7
島田美月さんは大学院の1年生。
昨年大学を卒業した際には、コロナ禍により卒業制作展が開催されず、悔しい思いをしたそうだ。
今回の展覧会は、彼女にとって初めての個展となるが、展覧会を行いたい気持ちはずっとあったそうで、意気込みの強さが感じられる内容となっていた。
作品は風景を扱った作品であるが、一概に写実にこだわっているわけではないし、安易に劇的でもない。
しかし画面に漂う空気が、見る者の感情を刺激する色を帯びている。
眼前の空間が、空気、水、その他微粒子で満たされているということを感じさせられる。
春の霞を思わせるその微粒子に反射し、拡散し、ものの形を映し出す、光の鮮やかさがみずみずしい。
モチーフは素朴な印象のものが多く、どれも自宅から徒歩で行ける範囲の風景であるらしい。
島田さんいわく、ちょっと変わった風景を描きたい、とのこと。
会場に掲げられたテキストでは、彼女が風景に向ける想いが「蠱惑的」「普通な顔をして異常な風景の不思議さ」といった言葉で表現されている。
穏やかではあるが、ごくごく微かなささやきが幾重にもこだまするような印象があり、異質、異様とまでは至らないまでも、日常見ているものに「不思議」を感じている作者の視線が確かに感じられる内容であった。
さらに言えば、作品だけなく、展示自体もスマートによくまとまっている。
視覚に対する感覚が良いのかもしれない。
ところで、当然ではあるが、彼女の身近な風景には人工物がたびたび登場する。
試しに尋ねてみると、ガードレールや電線が好きらしい。
それは描写を見ているとよくわかることだが、脇役として重要視されないことも多いであろうモチーフを、むしろ丁寧に描いているのが印象的だった。
そういった造形の緩急が、画面に小気味よいリズムを生んでいる。
『橋』は、実際に屋外にキャンバスを持ち出して制作したとのこと。
制作中にキャンバスが倒れたため、画面に土がついてしまったらしいが、意図して出せない効果であることもあり、筆触のラフさと相まって面白い効果になっている。
『はるあれ』は、雨の日の駐車場の風景。
水滴で歪んだ白線やワイパーに払われた水の弧から、車のフロントガラス越しの景色であるらしい
ことがわかる。
それらを丹念に描き出すことも、目で見て面白いと感じたものを素直にとらえようとする姿勢が感じられる。
『あいまい』は、DMにもなっているだけあって、雰囲気の良さで言えば一番かもしれない。
個人的には、この作品のガードレールの汚れた表情と、繊細で鮮やかな菜の花の造形、その向こうの湿度を帯びた光のコントラストが好きだ。
作家にとってこの景色が、手で触れるように身近であることが感じられる1枚となっている。
『もりびと』の「もり」は、「守」なのか「森」なのかと尋ねると、どちらの意味も含ませているが、どちらかというと「守」とのことだった。
わたしははじめ、ポーズをとっていながら表情を描かないことに違和感を覚えたが、実はポーズをとってもらったわけではなく、自然な姿を捉えたものだそうだ。
地域(森)で生業にいそしむ人々(守人)の姿は、彼女にとって身近なもの、普遍的なもののひとつなのであろう。
そして、普遍的なものだからこそ、表情、個別性は画面の中に不要なのだろう。
色々と並べてはしまったが、これからどのように変化していくのか、深化していくのか、本当に見るべきはこの先なのであろう。
今後一層の活躍を期待したい。
島田 美月 展 『いっかいやすみ』
2021年3月6日(土)~14日(日)
ギャラリーしのざき
(茨城県水戸市泉町1-3-14 田村ビル3F)
https://g-shinozaki.com/