大星 歌奈子 展

アート探訪


2020/7/5 Sun.


初めて大星 歌奈子(おおぼし かなこ)さんの作品を見たのは、2018年の茨城大学美術課卒業制作展で展示されていた彼女の卒業制作だった。

その時に見た作品は、スクエアの画面に、淡い色彩とややラフな筆触でトルソ(頭部と手足を除いた人体像)を描いた組作品で、印象に残っていたのだが、今回DMで見た作品はその時とは随分と様子が違っていて、自分がかつて見た作品と大星歌奈子という人物が、私の頭の中では全くつながっていなかった。

何となく失礼をしてしまったようにも思う。

さて、今回の作品は、キャンバスに油彩で描かれたものだったが、版画のプレス機を用いて、樹脂製の板を押し付けて絵の具を圧着するという方法をとっているということだった。

画面には、なるほど、丸い板を押し付けた跡が、単なる色面ではなく、マチエール(絵肌)として残っていて、いくつもの版を重ねて刷った版画のように、層となって、画面に複雑な表情を与えている。

透明の厚さⅢ

あるものは絵の具が押し出された円弧、あるものはしっかりと絵の具が圧着された円形。

一見するとスピード感をもって塗られたように感じられるが、実際には細やかな作業の積み重ねで作られていて、見るほどに奥行きが増していくように感じた。

作品は抽象絵画といってよいのだろうが、トルソの作品からの流れを伺わせる人体(あえて「人物」ではなく)のほか、窓やカーテンを思わせる造形が見て取れる。

そこには、例えば風で開いたドアに何者かの意図を感じたり、誰もいない部屋で誰かの気配や残影を錯覚したりするような微かな不穏さがあって、それが魅力的だった。

会場風景

ところで、会場入り口から見て右側の壁の2点は、今年大学院を修了したのちに制作した作品とのこと。

左から、透明の輪郭Ⅱ、透明の輪郭Ⅰ

もともと別の絵が描いてあったキャンバスを剥がして、その上から新たに描いたそうだが、もとの絵の名残が重厚な色彩の層となっていて、他の作品よりもさらに豊かな表情を見せている。

また、本来は釘で止まっているキャンバスの側面もそのまま画面として使用しているため、キャンバスの物質感や側面特有の汚れが良いスパイスになっていた。

剥がしたキャンバスを張り直さず、あえて切りっぱなしの状態を見せるために、パネルに巻き込むようにして固定してあるのも面白い。

ただ、パネルの規格を示す刻印が側面からそのまま見えてしまう点だけが、少々気になった。

新型コロナウイルスの影響で、大学院修了制作の発表の機会がなくなってしまったとのことで、大星さんにとって、今回の展示は1つの区切りでもあったようだが、わたしとしても展示らしい展示を見るのは数か月ぶりのことだったので、とても良い刺激になった。

今後はどのような展開につながっていくのだろうか。
次回の展示も楽しみである。


いきづく - Things Which Breathe in scenery –
第1期 大星 歌奈子 展
2020年6月30日~7月9日
ギャラリー・サザ
(茨城県ひたちなか市共栄町8-18)
https://www.saza.co.jp/index.php

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